いやはや、素晴らしいライブだった。
そもそも金谷さんのバースデーライブというのは、3年前に心斎橋の(今はなき)CLUB ALIVE!で開催された50歳記念のに行ったことがあるのだが、あの時は金谷さんのいろんなバンドやユニットをメインに、ご本人が参加していないバンドもいくつか出演して彩りを添えていたものだった。が、今回は全編出ずっぱりだという。たっぷりあのギターを味わえる反面、「長時間休みなしで大丈夫?」という心配もあった。
まあとにかく案ずるより産むが易しと会場の都雅都雅に到着すれば、いつものようにテーブルが並んでおらず、椅子だけが前方を向いてズラリと並べられていた。多数の予約があってこういうことになったのだろうし、それだけ期待値も高く、また地元ゆえになじみの方々も多いということなのだろう。
そしていよいよ開演となった。
金谷幸久ソロアコースティック
「アコギ1本抱えて人前で歌うのは高校以来」とのことで、喉の不調ゆえにハスキーな声になってはいたが、それでも味のある歌とギターを聴かせてくれた。それでもう数曲やるのかと思いきや1曲のみで次のセクションのメンバーを呼び込んで途切れることなくつないだ。
ハクチウム with 金谷幸久
独自の世界観を持つこのユニット、前回見た時はBIG JACKでヴォーカルとギターに金谷さんが加わったアコースティック・バージョンだったが、今回はキーボードになおじさん、ドラムにろまんさんが加わったバンド・バージョン。と言ってもベースいないから両方の中間と言うのが正しいんだろうけど。ハイトーンの歌声で和風の歌詞と独自の曲想で聴かせるその音楽と、ゆるくて可笑しいMCのギャップもまた楽し。金谷さんはアコギでソロも弾いてみせたが、やはり名手というのは何を弾いても様になる。恭司さんがそうであるように、実に味わい深く、美しい音色と見事なプレイが印象に残った。
G-Style
ゲイリー・ムーアのカバーをやるバンドで、ベースがTAKUさん、ドラムが先程に続いてのろまんさん以外は、金谷さんとヴォーカル、キーボードが「URIAH BEEP」と同じメンバー。いくら歌も自分でこなすゲイリーのカバーだからと言っても、金谷さんがそれをやるのは難しいようで…私もいつも思っていたのだが、ゲイリーは同じヴォーカル兼任でも恭司さんやデイヴ・メニケッティ(Y&T)みたいにライブで再現することを考えずにそれぞれのパートを別々に作ってしまう人だったから、「これライブでどうやんの?」と思うことがしばしばだった。そこを本家は曲によって自分が歌ったり専任ヴォーカルに歌わせたりとか、歌えるマルチ・プレイヤーであるニール・カーターと分担してこなしていたが、全編芝本さんに歌わせることで金谷さんはギターに専念という形になっていた。で、ヒープやAC/DCカバーでハイトーンのイメージの強い芝本さんだからゲイリーの歌くらいは楽勝だろうと思ったらとんでもない。低く聞こえるだけでゲイリーって実はかなりの高いキーで歌っていたようで、実際辛そうな場面が何度もあった。
金谷さんはマシンガン・ピッキングも泣きも見事にこなしていたし、特に中盤のバラード3連発でのプレイは見事だったが、やはり同じカバーでもジェフ・ベックやヒープ、はたまた(最近やってないけど)リッチーを弾いてる時と比べたらややかしこまった印象だった。私も知ってる曲ばかりで全編が構成されてたが、ここだけセトリ載せて他はなしというのも不自然だから割愛するが、最後に披露された唯一のオリジナル「ON THE LOOSE」と比べたらその違いははっきりしてて、やはりオリジナルの方が体に染みついている分、それまでと比べたらずっと自然に感じられた。
なお、ドラマーでありながら自身もゲイリーの大ファンであるろまんさんもツボを心得たプレイでバンドを支えていたことも特筆させて頂く。
TRIBAL SOUL
いよいよオリジナル・バンドの登場。HR/HMではない、単に「ロック」としか言いようのない音楽性は、「こういうジャンル」というのがはっきりしてる方が受け入れやすい人の方が多い現状ではなかなか受け入れられにくく、だからかつてのEBONY EYESやソロアルバム「EAU ROUGE」あたりしか知らない人たちは戸惑うばかりで、新しいファンも思うように増えないことが金谷さんの悩みの種のようだが、私みたいにジャンルにこだわらない者としてはシンプルに「上手いメンバーが奏でる心地良い音楽」として受け入れられる。
いつも「リラックスした感じ」「自然体」と表現しているが、前者はあくまでHRをやる時に比べてであり、後者も「このメンバーが自然体でやったらこういう音になる」ということであって、随所で味わえる緊張感もまたこのメンバーの「自然体」なのだ。
金谷さんのギターは、オリジナルの間に挟まれたジェフ・ベックの歌もので聴ける本家由来のプレイ、また時にはカルロス・サンタナを思わせるような場面もあり、今の金谷さんがやりたいのはこういう方向性なんだなというのが実感された。
そう、ゲイリーの時にはかしこまった感じだったのに、ベックを弾いたらオリジナルに混じっても違和感のないのは、やはり体へのなじみ具合の違いということだろう。
金谷さんのギターは、オリジナルの間に挟まれたジェフ・ベックの歌もので聴ける本家由来のプレイ、また時にはカルロス・サンタナを思わせるような場面もあり、今の金谷さんがやりたいのはこういう方向性なんだなというのが実感された。
そう、ゲイリーの時にはかしこまった感じだったのに、ベックを弾いたらオリジナルに混じっても違和感のないのは、やはり体へのなじみ具合の違いということだろう。
で、いつもリズム隊の働きを強調しているが、今回改めて素晴らしいと思ったのは濵さんの歌唱で、声量・声域・ピッチの正確さともに凄いのだが、それに加えてマイクの使い方も絶妙で、元基さんもたまにやる、遠くから声を出してマイクに近づく、もしくは近づける「フェイドイン唱法」(って言うのか?)が見事で、こういうのもやはり歌唱テクニックの一つとして大きな効果があるんだなと思った。
Birthday Special Band
さていよいよ最後のバンドなんだが、金谷さん以外はババちゃんこと福村高志(ドラム)、宇都宮清志(ベース)、岡垣正志(キーボード)という、EBONY EYES FINAL FIGHT PROJECTそのまんまなのに、「ヴォーカル:藤本朗」ではなく、Miku…って誰?と、今回の出演メンバーが発表された時に私は戸惑ったものだ。そして調べてみたら、「三匹の子豚」のメンバー…一応シングルは持ってるが1度聴いてラックに突っ込んだまま…多分強い印象を残していなかったからだろう。まだ若い女の子だし、それがこの百戦錬磨の強者たちばかりの演奏陣をバックに歌えるのか?と思ったら不安でならなかった。そして出てきた彼女は、ただでさえ小柄なのに(実はババちゃん以外大柄な人はいないのに)楽器を構えて立ってるだけで威圧感で大きく見える演奏陣に囲まれると更に小さく見えてしまう。だから不安は更に増大したのだが…実際始まってみたら、その不安は見事に払拭された。
例によって?選曲はEBONY EYESと金谷さんのソロアルバムからだったが、そのMikuちゃんが実に力強い歌声を聴かせたのには驚いた。こんな小娘(おっとっと)相手でも全く遠慮せず、いつも通りの大音量で迫ってくる演奏陣と互角とは言えないまでも、結構な声量と表現力で健闘していたのだからこれは良い意味で予想を覆された。さすがに歌詞を全部は覚えきれなかったのかカンペをチラ見しながら歌ってたが、それでもそこまでに全体リハ以外にも個人練習やイメトレも重ねていたのだろう。ドロドロ不倫地獄の「DIRTY BUT SO BEAUTIFUL」でさえ、下手すりゃ棒読みならぬ棒歌いになりかねないところを、しっかり「やりきれない気持ち」にさせてくれたのだから恐れ入った。
G-Styleのあたりから「指痛い」言ってた金谷さんも、そればかりではなかろうが、いつもの如く鬼気迫るプレイを聴かせていて、特に今回はTRIBAL SOULをやった後だったからその好対照ぶりがまざまざと味わえた。光と影のような両バンドでの対照的なプレイはどちらも金谷さん本来の姿であり表裏一体であることが実感された。
ろまんさん、森本さんも凄腕だがババちゃんは更にパワフルだし、レオ(宇都宮)さんも堅実でありながらも巧みなプレイを聴かせたし、「今回は抑え目だった」と言いながらも派手なアクションで重厚な音を奏でた岡垣さん…いつものFFPでもそれらは感じられるのに、今回歌い手が違っていてもそれがマイナスにならなかったのは見事だった。
そしてMikuちゃん、「FINAL FIGHT」「JAILBREAK」も見事に歌い上げ、これは将来がなかなか楽しみだなという期待を抱かせ…そう、いつの間にか私は彼女も演奏陣と変わらないくらいに注視していた…ミスマッチと思わせた組み合わせは意外にも見事なコンビネーションで、少々短いながらも本編、そしてアンコールを終えた。
…今年はアコースティックとベースを弾くことが増えるからこういう機会はもうないかもしれないということらしいが、それでも(それだけに?)現在までの活動の総括として意義のあるイベントだったし、全体を通して非常に楽しめた。これからやろうとしているインストの方も興味あるけど、TRIBAL SOULもFFPもまた見たいし、今回とは違った形でもいいからまたMikuちゃんとも一緒にやってみてほしいとも思った。
終演後はそんなに長居せずに帰ったけど、でも本当に満足出来たライブでありました!